測定レポート関東

はかる、知る。 那須塩原(後編)

20141114

自由学園那須農場


右から、アジア学院の山下崇さん、荒川朋子さん、自由学園那須農場の幼方(うぶかた)英次郎さん、当所代表の石丸。


前編に続き、自由学園那須農場の計測した模様をお伝えします。

居住地域の木を切り倒し、表土をはがす

アジア学院から車に乗って約15分、街道を曲がって農道に入ると「自由学園那須農場」の広々とした牧草地が視界に広がりました。

同農場( http://www.jiyu.ac.jp/nasu/ )は、東京都東久留米市にある一貫教育校、自由学園の教育農場として1941年に設立されました。33ha、東京ドーム約7個分の耕地面積内で約100頭の乳牛を飼育しており、生乳を栃木県酪農業協同組合へ出荷しています。

農場の建物に到着すると、農場長の幼方(うぶかた)英次郎さんが出迎えてくれました。

「アジア学院と同じくぼくたちも、ここにとどまりながら、農場員や有志も一緒になって除染や復興作業を重ねてきました。荒川さんに紹介していただいて読んだ、原発事故前からの計測データがある上での分析がなされていた、非電化工房の藤村靖之さんのレポートがよりどころになりました」

そう語るように幼方さんたちは、空間線量に関しても農園内の79カ所で定点測定し、対処をしてきました。「ここはもともと林だったんですよ」。そう語る幼方さんの指差す先を見ると、広々とした光景の中に、宿舎や職員住宅が並んでいます。

定点測定を始めた2011年の8月の時点で、幼方さんが指差す、生活地域の空間線量が0.77μSv/h程度ありました。そこで、放射性物質を含んだちりなどがたまりやすい樹木を切り倒し、さらに表土をはがすなどの対策を取った結果、’11年末には0.35μSv/h程度にまで線量が急激に下がり、その後も下降し続けているそうです。

「311」前のこんもりとした木々が広がる光景を想像しながら、アジア学院の際と同じく、HSFで地表から約10㎝の高さで計測しました。職員宿舎や校舎がある一帯では0.11〜0.15μSv/h 程度、室内では0.07〜0.10μSv/h程度の数値でした。


宿舎と職員住宅へと続く道。木々を切り払っています。


空間線量計を普段から使う幼方さん、HSFの高性能さにすぐ反応します。


牧草地を測定する当所の石丸。


宿舎と職員住宅へと続く道。木々を切り払っています。



宿舎の中の空間線量も計測しました。


生乳やアイスクリームを測定しながら出荷する

そのままHSFを使いながら、牛舎や牧草地なども計測しました。全体を通して0.10〜0.26μSv/h程度、牧草地沿いの雨水などがたまりやすい場所で0.30μSv/h程度の数値が出ました。

2011年には飼料となる牧草のロールから3万Bq/kgを超えるセシウムが検出されたそうです。国からの補償を受けて乳牛の飼料を確保しながら、畑の除染を行ないました。「’12年もいくつかの場所で採取した牧草からかなりの量のセシウムが検出されたので、飼料の購入を継続しました」。そう語る幼方さんたちは、空間線量とともに、生乳なども計測を行なってきました。

「生乳に関しては、ABCなどにも計測を依頼してきましたが、ずっと『不検出』が続いています。ただ、一般販売している『放牧牛のアイスクリーム』に使っていたブルーベリーからは、一度17Bq/kgのセシウムが検出されたので、今も使用していません。同じ理由で梅やタケノコも採取していないですね」。農場内の畑で取れたブルーベリーを使ったフレーバーアイスクリームは人気が高く、残念がるファンも多いそうです。

「よろしければどうぞ」とごちそうしていただいたアイスクリームは、さらりとした口溶けで、控えめな甘さとミルクの味わいの余韻が心地よく、皆、しばし無言になって一心にいただきました。( https://www.jiyu.ac.jp/nasu/ice.pdf )



子どもたちが実習に戻ってこられる農場にするために

インタビューしている間に、客が訪れました。自由学園の卒業生で、近くに来たので寄ったそう。東久留米市にある自由学園で、長く教鞭を取ってもきた幼方さん。教え子との再会に顔がほころびました。

この農場は、もともと、自由学園の生徒たちが農業や畜産業の実習を行なうために作られ、毎年、生徒たちが合宿に訪れてにぎやかに豊かな時間を過ごしていました。しかし、原発事故以後、実習は行なわれていません。

「2011年の時点で中止にしました。自由学園の独自基準として、農場全体の空間線量の平均の数値が0.13μSv/h以下になるまでは、学園として生徒を連れてこないことになっています」

原発事故後に環境省が定めた、天然の放射性物質以外の原因で1年間に許される被ばく線量である「実効線量1mSv」を空間線量率に換算した「0.23μSv/h」が、一般的な除染の基準になっています。自由学園は、さらに内部被曝の影響なども考慮たうえで、より慎重な「0.13μSv/h」という基準を打ち出しています。’13年1月からは、生徒は親の同意書で農場の利用が可能となりましたが、大勢が集まって、牛の鳴き声が聞こえてくる、おだやかな空気に満ちたこの農場で体験学習をする日が再開するまでは、まだ時間がかかりそうです。

「今後もできるだけの対策を行なっていきます。ここにいながら、子どもたちの歓声が聴こえてこないのは、正直、寂しいんです」

終始笑顔で話してくれていた幼方さんが、少し抑えた声でそう語ると、計測に同行してくれた荒川さんと山下さんもうなずきました。

曇り空から、ぽつりぽつりと雨粒が落ちてくる中、私たちこどもみらい測定所のチームは那須から次の目的地へと向かいました。

文・写真:服部夏生(常緑編集室/こどもみらい測定所)

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2014年11月14日 12:52:56