測定レポート関東

はかる、知る。 群馬(後編)

20141125

高原に広がる大塚農場の畑。


群馬県高崎市にあるスーパーマーケット「トミー」が提携している地元の農家さんたちを訪れて、実際に空間線量などを計測して、お話を伺ってきました。

有機無農薬栽培を続けてきた農園

高崎駅からほど近いトミーから車に乗って1時間以上、吾妻群東吾妻町の山あいにあるご自宅にお伺いすると、大塚農場の大塚秋則さんと拓也さん親子が迎えてくれました。

大塚秋則さんは「毎日食べる野菜で多くの人を健康にしたい」という思いで、半世紀以上もの間、有機無農薬栽培を続けてきました。また、吾妻郡の有志の生産者とともに「上州なっぱの会」を作り、有機野菜をはじめとした、おいしくて安心できる野菜づくりに取り組んで来ています。有機栽培では難しいとされる、春菊やホウレンソウといった「葉もの」をはじめ、作る作物は多岐にわたります。トミーにも旬のものから乾燥野菜までさまざまな作物が並んでいます。


畑を案内してくれた大塚拓也さん。

早速、拓也さんに各所にある畑に連れていっていただきました。

最初は丘の上にある畑。ホットスポットファインダー(HSF)で空間線量を計測すると、0.025〜0.050μSv/h程度。そこから谷間に降りて行ったところにあるビニールハウスの周辺などでは0.041μSv/h前後でした。畑の脇にある木立の下では、0.1μSv/hを超える数値が出ており、原発事故の影響はいまだ残っていますが、畑周辺の空間線量自体は、比較的落ち着いているという印象です。お預かりした「ナス」と「ピーマン」をこどもみらい測定所で計測すると、いずれも検出下限値約2Bq/kg以下で不検出となりました。

「トミーさんからお話をいただいて、現状を知るためには、はかるしかない、いい機会だととらえて、継続的な計測をはじめました。特に気にしていた土壌も、時間とともに全体的にかなり数値が下がっています。それらの情報を出すことで、薄い根拠やイメージによる買い控えなどといったいわゆる『風評被害』はなくなったように思います」

と、計測の効用を語る拓也さん。「この土地が『放射能』の影響を受けるようになるとは、想像もしていなかった」と言いますが、親子で、現状を細かく確認しながら、有機無農薬栽培でおいしい作物作りを継続しています。


ビニールハウス内。グリーントマトは果物のような味わい。


ビニールハウスそばの木の下の空間線量は0.118μSv/hでした。


大塚明則さんご夫妻と拓也さん。取材前にお預かりしていた収穫物の測定結果をお渡ししながら、数値について説明する当所前田。


ナスの測定結果


ピーマンの測定結果


完熟堆肥を使ったトウモロコシ農家


吉野さんご自身がかつて開墾して作ったトウモロコシ畑。


大塚農場を後にして、今度は沼田市利根町にある吉野源作さんの農場を訪ねました。里と山の合間にある斜面に広がるトウモロコシ畑に立つと、向いの山に広がる畑や里まで見渡せます。

吉野さんは、戦後に開墾したこの畑で約2年かけて熟成させた堆肥を使い、トウモロコシを中心に作ってきました。中でも「味甘(みかん)」と呼ばれる品種は、糖度20度を超える甘みと、後を引く味わいの深さでトミーの人気商品のひとつになっています。


2011年3月以前から置かれていた堆肥の周辺の空間線量が、ほかとは大きく異なることはありませんでした。

そんな吉野さんも、原発事故が起こるまで、「放射能」の影響を受けることなど、想像していませんでした。

「ホウレンソウなどに出荷制限がかかったというけど、この畑の放射線量がどうなっているのかはっきりしないし、補償を受けようとするにも手続きばかりで大変。これからどうしたらいいのか、と、やりきれない思いにもなった。けど、この仕事を続けなくてどうする。仕事を継いだ孫にもそう言いながら、続けてきたよ」

吉野さんは、原発事故からの日々をそう振り返ります。

「でもな、消費者だって真剣に考えている。誰だって放射能のことは心配だよ。トミーさんたちの話を聞いて、畑を続けるのなら、ちゃんとはかろう、と思ったんだ」

HSFで吉野さんが開墾した畑各所の空間線量を計測しました。全体的におおむね0.03μSv/h前後、畑の端の木立に近いところで0.04μSv/h前後でした。さらに原発事故によって放出された放射性物質を多く含んだ「放射性プルーム」が拡散したとされる2011年3月中旬前後にも外に置かれていたために使用を控えていた堆肥の回りも計測したところ、0.030〜0.036μSv/h程度でした。

ちなみに世田谷区職員が平成26年10月に、近隣の利根郡川場村内の施設を測定した結果は、0.082〜0.229μSv/hだったそうです( http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/106/154/673/d00036327.html )。使用した空間線量計の違いなどもあるので安易な比較はできませんが、吉野さんの畑周辺の方が空間線量は低い印象です。

「この畑周辺は、放射性プルームの降下をかなり免れた可能性があります。また、福島県二本松市の有機農家と新潟大学の野中昌法教授の実験で、放射性物質の完熟堆肥から作物への移行率は低いという結果も出ています。引き続き用心しながら、今まで通りの栽培をお続けになってもいいのではと感じます」

という当所代表の石丸の説明に、吉野さんや冨所さんも真剣な表情で聞き入ります。


畑の空間線量をはかる当所代表の石丸と吉野さん。後ろは測定に同行したエコ雑貨倶楽部代表の吉成さん。


畑の中はおおむね0.030μSv/h前後の空間線量でした。


2011年3月以前から置かれていた堆肥の周辺の空間線量が、ほかとは大きく異なることはありませんでした。


トウモロコシの測定結果


生産者と消費者との間の信頼関係を作る

腹を据えて「はかる」ことを始めた吉野さんですが、その結果が常に良いわけではありません。一度、トウモロコシからセシウム134と137合算で3Bq/kg近く検出されたことがあったそうです。

トミー独自の基準はクリアしてはいるものの、セシウムが検出されたことは事実。トミーの冨所さんたちは相談を重ね、測定結果とともに「乳幼児には食べさせないことをおすすめします」と書いたポップを添えた上で販売すると、「完売」したそうです。

「測ってみた結果をきちんと出せば、お客さんに、自分で考えて選んでもらえる。それが分かって少しほっとした」

そんな吉野さんに、冨所さんが言葉を継ぎます。

「ある契約農家さんの作物は、土壌と作物を計測し、結果を公表するようにしたら、売り上げがそれまでの約3倍になりました。放射能汚染に関して今後も決して楽観はできません。ですが、私たちが生産者の方々と協力しながら計測し、さらにその思いや姿勢まで伝えて、お客様が判断するための要素を少しでも多く出すことが大切だと考えています。私たち小売店が間に入って、三者の間に『信頼関係』を築き上げていくことで、より健康な『食と生活』を提供し続けられると信じています」

計測を終えていただいたスイートコーンは、噂通りのおいしさで、またしても黙々と食べ続けるはめになってしまいました。また可食部を当所で計測したところ、検出下限値約2μSv/h以下で不検出となりました。

夏の長い日も暮れて、あたりがすっかり暗くなったころ、私たちスタッフは、大塚さんと吉野さんからいただいた抱えきれないほどの旬の作物とともに、家路につきました。

文・写真:服部夏生(常緑編集室/こどもみらい測定所)


「このあたりには熊が出るんだよ」。開墾時代からのお話を伺いながら測定をさせていただきました。


風味が損なわれにくい乾燥機を吉野さんも導入、自ら乾燥野菜を作っています。


こどもみらい測定所が定期的に測定して、検出下限値約2〜3Bq/kgで不検出という基準をパスした野菜や果物を、風味を損なわずに乾燥させた商品は、どれも保存が効く上に、凝縮された豊かな味わいを楽しめます。

こどもみらい測定所がある東京都国分寺市にあるmemoli ( http://memoli4future.com/ ) でも大塚さんや吉野さんの畑で出来たものを始めとして各種取り扱っています。よろしければぜひ味わってみてください。

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「トミー」が今、力を入れている商品のひとつが「乾燥野菜」と「乾燥果物」。

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2014年11月25日 19:20:14