測定レポート東京

はかる、知る。奥多摩

20150218

奥多摩町一帯は、特に首都圏に住む私たちにとって、自然にふれあえる場であるとともに、都の水源の約19%を担う多摩川の水源地として重要な場所でもあります。今回は、JR奥多摩駅を拠点に、水道水源林周辺などを計測し、東日本大震災から約四年経った同地域の「いま」を測定してきました。

 文・写真:服部夏生(常緑編集室/こどもみらい測定所)



奥多摩で自然体験プログラムを行ってきたアースマンシップ

 今回、ナビゲートをお願いしたのは、アースマンシップの代表、岡田淳さん。アースマンシップは、岡田さんの体験をもとにして、子どもから大人までを対象として自然の中で遊びながら自らの「気づきの力」や「察知力」を高めて行くプログラムの数々を行ない、高い評価を得てきているNPO法人です。

 彼らにとって、奥多摩町は1996年の設立以来、多くの活動が行われてきた大切な場所のひとつ。ゆえに福島第一原発の事故による、同地域への「放射能」の影響には、ひときわ注意を払ってきました。

「子どもを預けてくださる親御さんたちが心配されている姿を見て、まずは測ろうと思いました」

 そう振り返る岡田さん。キャンプを行う場所などの空間線量を繰り返し計測し、水道局の測定部署に直接、計測状況や結果を聞くなどして情報を集め、ホームページ等で公表した上で、活動を継続してきました。

「数値をどのようにとらえるかは、各自が判断せざるを得ない部分が多いのが『放射能』。だからこそ、できるだけ信頼性の高い判断基準となる情報を出していかなければと考えました」

 こどもみらい測定所も、土壌の計測などでご活用いただいてきました。

 今回は、当測定所に来所される方々からも「比較的、空間線量が高いのでは」というご相談が多い奥多摩地域で「ホットスポットファインダー(HSF)」による空間線量の計測と、主なポイントの土壌の計測を行い、現状を知ろうと、ご協力をお願いさせていただきました。


今回計測のナビゲーターを努めてくださったアースマンシップの岡田淳さん


奥多摩駅を拠点に各所の空間線量と、8つのポイントでの土壌を計測しました

奥多摩町の市街地を計測する


 計測を行ったのは、2015年の2月4日。晴れわった空の下、登山客の姿がちらほらと見える奥多摩駅前をスタート地点として、地上10㎝の高さでHSFでの計測を始めました。

 駅裏の砂地で0.06μSv/h前後、裏山の斜面の草地で、0.1μSv/h近く、駅近くの道路の上で0.03μSv/h前後。今回の計測全般でも、空間線量に関しては、おおむね0.03〜0.1μSv/hという数値が出ました。2013年12月に渋谷や原宿を計測した際は、全体的に0.02〜0.1μSv/h、高めのスポットで0.1〜0.18μSv/hだったことに比べて、大きな差異はないように見受けられます。

 駅の南側に位置する愛宕山の土壌を計測しました。愛宕山一帯は、アースマンシップのプログラムでもよく歩きにくる上、町民たちも気軽に遊びに来る場所だそう。

 最初は遊歩道が整備されている北側の斜面で計測しました。中腹の木立の脇で、地表から5㎝掘り下げて、土を採取します。空間線量を計測すると0.024μSv/h。さらに山を降りて、少し住宅街を歩いて、集落のはずれの東側斜面でも同じ手法で採取しました。ここの空間線量は0.065μSv/h。

 それぞれの土壌は、セシウム134と137の合算で127Bq/kg前後と93Bq/kg前後という計測結果が出ました。2014年あたりの多摩地区の土壌はおおむね30〜200Bq/kg程度、約1年前に東京都の夢の島公園内の土壌を計測した際は、371Bq/kg前後だったことを考えると、多摩地区の一般的な、「低いレベルの環境汚染」であるといえそうです。


地上10㎝の高さで計測します


土壌は、5㎝の深さから上の部分を約1kg採取して計測します。採取したポイントは1mの高さの空間線量も計測。みんなのデータサイトにおける「土壌測定プロジェクト」の公式データとして活用します


人の手があまり入っていないような場所では、空間線量が0.1μSv/h程度まで上昇するスポットも散見されました


駅の西側の住宅街のはずれで計測。空間線量が0.065μSv/h、土壌が47Bq/kg前後という結果が出ました


水道水源林を計測する


 駅の西側の住宅街でも一カ所同じように計測をしてから、小河内貯水池(奥多摩湖)に向かいました。都民の大事な水源でもある湖周辺の空間線量は、おおむね0.06〜0.07μSv/h。湖畔の土は80.5Bq/kg前後でした。

 今度は、川乗山(かわのりやま)へと登っていく林道に入りました。一帯は水道水源林となっており、「安全でおいしい水の安定供給の原点」として、水道局が管理しながら、良好な水環境を保全しています。

 許可を取った車しか入れない沢沿いの林道を登って行き、ポイントで計測をしながら、環境教育実習地に向かいます。

 沢沿いの杉林と広葉樹に囲まれた空間は、アースマンシップ創設以来のフィールドでもあります。30人程度の小中学生が集まり、テントに寝泊まりしながら自炊し、自然の中での暮らしを体験するプログラムなどに活用しているそう。

 アースマンシップでは、東日本大震災以降、「被災地サポートプロジェクト」として、福島県の子どもたちにリフレッシュしてもらおうと、定期的に保養プログラムに招いてもいます。

「福島から来た子どもたちは、自然をありのままに受け取る子が多いですね」

 と岡田さん。自然体験に初めて参加するような子どもたちは、大人からの指示を待ったり、ゲームを考えだしたりして、時間をかけながら少しずつ自然とふれあうケースが目立ちますが、福島からの子どもたちは、すぐに目を輝かせて、泳いだり走ったりと、シンプルに自然の中で遊ぶケースが多いそう。そんな様々な個性や考え方を持つ子どもたちが、協力しあって自然の中で時を過ごすことで得られる「気づき」を大切にしたい。岡田さんはそう話します。


小河内貯水池(奥多摩湖)。東京都民の「水がめ」のひとつです


川乗山沿いの沢をのぼっていきます。途中にある日だまりで計測。空間線量は0.091μSv/h、土壌は65.2Bq/kg前後でした


杉林が続く林道


アースマンシップのプログラムが行われる環境教育実習地


苔の生えた地表付近で0.068μSv/hでした


教育実習地では杉林の斜面の土壌を採取しました


 環境教育実習地の土壌は、以前こどもみらい測定所でも計測させていただきました。その際は広場の土で約90Bq/kgという数値が出ています。今回は、杉林の中の土壌を計測したところ42.2Bq/kg前後という結果が出ました。ちなみに空間線量は0.037μSv/hでした。

 沢の水は、奥多摩町の水道水として使われています。それだけに、トイレの場所や、排水の処理などを通しての環境保全にもひときわ気を配っているそう。

 そんなお話を伺いながら、自動車にしばらく乗って、水源地に近い場所まで沢を登っていくことにしました。山の稜線近くの小さな橋のたもとで計測したところ、空間線量は0.061μSv/h、土壌は103Bq/kg前後となりました。

「100Bq/kg以上という数値は、本来は低レベル放射性廃棄物に分類されるので、問題はありますが、まずは穏当な数値と言えるでしょう。もちろん水源地だけに、引き続き注意を払っていった方がいいとは思います」

 当所代表の石丸はそう語ります。


一帯は水道水源林となっています


山の稜線近くの水道水源林まで登り、土壌を採取しました


「ここに住む方にも現状を届けたい」


 林道を降り、最後に、日原(にっぱら)の集落に連れて行っていただきました。

「プログラムに参加してくれた子たちに、最後にここの温泉でのんびりしてもらってからお別れすることもあるんです。ここに限らず、奥多摩町に住む方々には、設立以来さまざまな形でお世話になっている。その方たちにも放射能の影響がどのくらいあるのか、という情報を届けたいですね」

 そう語る岡田さんについて、ふきのとうがちらほらと顔を出している空き地で計測をすると、空間線量は0.063μSv/h、土壌は80.2Bq/kg前後という結果がでました。

「空間線量を測り、土壌も比較的広範囲に8検体無作為に採取しての結果として考えると、奥多摩はかなり低めの汚染で止まったという印象です。前から計測したいと思っていた地域を今回は回って、情報を出すことができて良かったと思います」

 と石丸が感想を述べると、岡田さんも、

「4年経ったこともあるとは思いますが、現状は僕が考えていたより、さらに穏やかで平均的なもののように思えました。いずれにしても、情報としっかり向き合っていくことが、これからを暮らす上で大切だということを改めて感じました」

 と、これまで独自に計測されてきた経験をふまえた上での感想を語ってくれました。

 水源地としても、私たちにとって大切な自然を内包する奥多摩町。そこの主だった場所を岡田さんと計測した今回のツアーは、自然とともにある人のあり方について改めて思いを巡らせるものとなりました。 


日原の集落。この奥に鍾乳洞などの観光地があります


集落はずれの空き地では、ふきのとうが顔を出していました


一日の計測を終えたアースマンシップの岡田さんと当所代表の石丸


* この計測とレポートは、真如苑からこどもみらい測定所が助成を受けて行っている多摩地域を測定するプロジェクトの一貫として行っております。

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2015年02月18日 16:00:22

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