放射線だいじょうぶ? という消費者の問いは
生産者自身の問いでもあります。
向かい合って、きちんと会話することで、
食の問題も、いい方向に向かって行くはずです。


 先ほどまでの強い雨がやみ、青空が広がりはじめた公園。冨山普さんが、自転車に乗って待ち合わせ場所に笑顔で登場しました。

 冨山さんが事務局長をつとめるアースデイマーケットは、「東京朝市」という通称どおり、食にまつわる生産者と消費者が直接コミュニケーションを取ることができる市場。食を中心とした生産者による安全で安心な食材や加工品が並ぶなか、社会貢献を活性化する「アースデイマネー」という地域通貨も行き交います。毎月の代々木公園を主な会場としつつ、首都圏各所で月1〜2回のペースで開催を重ね、この4月に7周年を迎えました。

 冨山さんは、東日本大震災と福島第一原発事故の後、食の放射能汚染の不安に向き合いながら、アースデイマーケットを続けてきました。安全を確認するための食品測定を積極的に行ってきており、こどもみらい測定所にも、開所後、何度もお越しいただいています。また、測定をしようとするマーケット出店者の方々の紹介もしていただいています。


 今回は、冨山さんに、震災後に行ってきたこと、そして考えてきたことを中心に、「食」の安全についてお伺いしました。

生産者と消費者が対面する食べもの市場

 私がアースデイマーケットに関わるようになったのは、スタートして4年目の頃です。翌年から事務局長として運営の責任を担ってきました。当時から強く意識してきたのは、生産者と消費者の間で、多様な価値を共有できる場にしたいということ。単なる「もの売り」にならないよう心がけてきました。売れる、売れないはもちろん重要です。でも、来場者が多いことだけを目標にするのでは既存の販売スタイルと変わりません。

 マーケットに出店を希望する生産者さんたちとは、まず対話をします。私たちの、出店者とお客さんが対面してのやりとりが行き交う「場」を作る、というコンセプトに共感していただくことが何よりも大事だと思っています。

 そうやって集まった出店者さんたちはいずれも「安心、安全、そしておいしい」食品を提供することに努力を重ねて来ている方々です。そんな方々とともに少しずつ前に進んできました。東日本大震災が起こった2011年には、首都圏の安全で安心な食の市場として、しっかりと育ってきたという手応えもありました。

東日本大震災のひと月後に活動を再開

「311」後に行なってきたことを、順を追ってお話ししましょう。

 まず、3月19日に予定していたマーケットは、中止にしました。それまで開催を中止したことはありませんでしたが、参加していただいている生産者全員の安否の確認が取れない状況では、開催できませんでした。都からの自粛要請もありました。

 その後、福島県、岩手県などの東北や、北関東の生産者さんたちが全員、命には別状ないことが確認できたこともあり、4月に代々木公園で震災後初のマーケットを開催しました。

 出店者もお客さんも、いつもの半分くらいの数での開催でした。でも、とても印象的な光景が広がっていました。マーケットのあちこちで、皆さんが再開を喜んで抱き合っているんです。余震などの不安もある中、お客さんたちがやってきて、出店者さんたちと「大丈夫だった?」「無事だったんだね」と声をかけ合い、涙を流している。その姿を見て、「絶対にやめられない、この、人と人とのつながり作りのために今日までやってきたんだ」。そう強く思いました。

食品の放射能汚染への不安を取り除くために

 震災後しばらくは、関東でもホットスポットが各地にあり、場所ごとに放射線量が大きく異なっている上に、信頼できるデータもそろっていませんでした。ある程度納得の行くデータが出るまで出荷を取りやめた出店者さんもひとつやふたつではありませんし、お客さんも減少しました。私たちは、安心、安全な食をうたっていますから、お客さんたちからの放射能汚染への不安に応えて信頼を回復することが急務でもありました。

 扱う食品の全品検査をいち早くされた企業もありました。私たちもどうするかずいぶん悩みましたが、結局、出店者さんたちには測定を義務づけられないと理解しました。アースデイマーケット独自の基準値も設定していません。

測定を義務づけられないと思った理由

 私たちが測定を義務づけられないなと思った理由は、いくつかありました。

 ひとつは、やはり出店者さんたちと結んできた信頼関係です。彼らは、誰よりも安心安全な食べものを提供することを基本として取組んで来た生産者です。だから、放射能の問題に関しても自分たちできちんと納得するものを出すだろう、と思いました。現にたくさんの方が当初から取組みましたし、しかも、同じ思いで作ってきた他の農家仲間たちの作物と、自分が作った作物を、放射線量の「数値」によって差を作ってしてしまうことに抵抗を感じて、たとえ測定の結果、セシウム等が検出されず「安全である」と判断しても、ご自身の測定した数値を積極的に表示したくない、とおっしゃる方も少なからずいました。そういった仲間どうしの思いも影響しています。

 全品測定した際の料金の高さもありました。もちろん測定する意義は大いにあります。でも、出店者の多数をしめる少量多品目生産の農家が、作物を全部測ったら売り上げはどこにもなくなってしまいます。本来は、原発事故の被害者である農家や食品加工業者が自己負担で測定するのもおかしな話ですしね。私たちアースデイマーケットが測定を肩代わりできる体力でもあれば、また話も変わってくるのですが。

 とは言っても、最優先すべきは今、流通させる商品がこれまで通り安心、安全であることであり、お客さんたちが納得して手に入れる環境を整えることです。ですから、出店者さんたちには「お客さんからの問いに応えることができる根拠を持ってほしい」と伝え続けてきています。実際、どの出店者さんも、自らが納得して、きちんと説明できる測定結果やデータを持って参加されています。

こどもみらい測定所に測定を依頼する

 ぼく自身も事務局長として、お客さんの質問に応える立場でもあるので、いくつかの商品の測定を行ってきました。こどもみらい測定所には何例も測定をお願いしてきています。

 こどもみらい測定所はリーズナブルな価格設定であることに加え、測定や説明も丁寧と感じました。例えば、通常の2400秒の測定では数値が分かりにくいと感じた際は、6万4000秒の測定にかけてくれたりして、より明確な結果が出るようにしてくれました。厳しい状況が続いている中、自分たちのよりどころとなる「数値」を出してもらえることで、すごく助かりました。要望以上のことをやっていただけたと感じています。

 希望する出店者から、マーケット会場で直接検体を預かってまとめて測定をお願いもしてきました。今は、直接こどもみらい測定所にお願いする出店者さんもいらっしゃるようです。

測定によって、信頼できる情報を得る

 事故の後しばらくは、測定の結果で「検出された」ケースもありました。

 測定することで気になる「数値」が出て出荷をとりやめた例もあります。ある日本茶の農家さんは測定の結果を見て「今年の収穫分は出荷をやめた」とおっしゃられました。厳しい選択だったと思います。

 その方が昨年(2012年)、秋の茶葉の測定を、私を経由してこどもみらい測定所に依頼したんです。もちろん、数値は下がっていました。その結果だけでも十分ですが、さらに、わざわざその茶葉で濃い目にお茶を出したものも測ってくれたんです。そこで出た数値とともに、代表の石丸さんからの「お茶として飲むなら、問題ないでしょう」というコメントを頂き、その言葉も添えて、農家さんに伝えたら、すごく喜んでおられました。

 私自身、土から作物への移行率など、書物で調べたことも多かったのですが、やはり実際に測ってもらうことで、判りやすかったです。顔を見ながらやりとりできることでの信頼感もありましたね。

対話することで、知ることができる

 私たちアースデイマーケットの特長は、やはり、出店者さんとお客さんで会話ができる場であること。そこで「なるほど」と思える話を聞いて、より生産側のことや商品のことを深く理解してから購入してもらえます。

 放射能の問題も最大限お互いの心情を配慮しつつも対話をいとわないことで、長く続く関係ができると思います。お客さんはもとより、出店者さんや私たちにとっても、『放射能だいじょうぶなの?』から始まる会話はしんどいし、誰もいい気分にはならないでしょう。でも、そういった「知るため」の会話は、とても重要だと思うんです。そこで、生産者が、消費者の判断材料となる話をきちんとできれば、必ずいい方に向かって行くはずです。

 東日本産というだけで食べない、という声も事故の後しばらくはよく聞こえてきました。でもこれからは「大丈夫」という情報が測定を通してどんどん出ることで、風評被害も抑えることができると思っています。

 アースデイマーケットに来るお客さんの数も、かなり回復したように思います。お客さんが、購入した商品とともに、出店者さんから聞いた話を他の人に伝えることで「不検出の安全な食べもの」の情報が広がっていけば、と願っています。

安全安心な食べものが手に入る市場であり続ける

 これからは、ますます消費者が根拠をもって「選ぶ」ことが必要になってくると思います。だから、自分たちが作る野菜の特長はどこにあるのか、ということを生産者側も、もっと伝えていいと思います。実際、私たちのように、志を同じくする農家が集まる市場も各地で増えてきています。価値の多様さが認められてきているのでしょう。

 私自身への自戒でもありますが、今まで、脱原発の活動に限らず、TPPにしても、改憲問題も、市民活動はどうしても推進する「多数派」の後手にまわって来たように思います。改めて日々何をどう選んで生きて行くかが重要になっていると思います。

 アースデイマーケットの出店者さんたちは、それぞれが、地道かつ着実に、その地で、手の届く範囲で食べものを作ってきています。だから、大量生産、大量消費を前提とした大規模なものを作らなくてもいい。彼らはそういったシステムを311の前から確立しています。自然と共存しながら、おいしいものを作り続けてきた彼らと繋がっていく意味が、今、クローズアップされているように感じます。「仲間」として繋がり、持続可能な社会を作っていくことが、今回の原発事故のような大きな間違いを起こさないことにつながっていくのではないでしょうか。

 繰り返しになりますが、アースデイマーケットの出店者さんたちは、彼らのお客さんを自分の家族と同じように思って、安心安全な食べものを作ってきている人たちです。マーケットに足を運び、彼らと会話をしながら、その価値を味わっていただければと願っています。


  ♣  ♣  ♣

放射能の影響と向き合ったときに、どこで「線引き」をするか、最終的な判断は各自にゆだねられていることが今の日本の現実です。ならば、消費者が自ら判断するための材料をどこまで誠実に提示できるか。淡々と、しかし丁寧に語る冨山さんは、生産者たちとともにそのことに真剣に向き合ってこられているように思いました。

 視線の先には、TPPや改憲問題といった社会の動きもとらえられています。
「私たちは、多様性を認める社会を作るための発信源になりたい。価値観を共有できない人とも会話を重ねていくこと。それが私たちの次の目標なのでしょう」

 ひとつの価値観でまとまることなく様々な価値の存在を認め、「食」を通して持続可能な社会へのありかたを模索する。そんな冨山さんをはじめ、志を持つ人たちが作り上げた「アースデイマーケット」。その思いに共鳴しながら、こどもみらい測定所も「311以降」の私たちをとりまく社会に目を向け続けていこうと考えています。


冨山 普(とみやま・ひろし)
アースデイマーケット実行委員会事務局長。獣害駆除の猪や鹿の肉を加工したソーセージを販売する「森守」などの活動も行う。2児の父。32歳。

アースデイマーケット http://www.earthdaymarket.com/

文:服部夏生(常緑編集室)/写真:前田幸宏(こどもみらい測定所)